新入社員が行く! 春の工場見学━連載コラム全3回━【第1回 刷版課編】
2022/05/26
- 吉祥院工場
- オフセット印刷
- オンデマンド印刷
はじめに
印刷工場を構成する「刷版課」「印刷課」「検査室」という3つの部署をご紹介するコラムがスタートいたします!
新入社員の視点から「印刷物ができるまで」の流れをレポートしていきます。
興味を持っていただいた方に少しでも楽しいものをお届けできるよう、努めて参ります!
刷版課に行く前に……
工場で稼動しているのは「オフセット印刷機」です。
本社にある「オンデマンド印刷機」とあわせ、2つの印刷の違いと特長について簡単にご紹介します。
*「オフセット印刷」と「オンデマンド印刷」の最大の違いは印刷する際に「版」を使うか使わないか(この「版」が刷版課のキーワード)
【オンデマンド】
・インクジェットやレーザープリントなど
・版を作る工程、インキを乾燥させる工程が必要ないため「少部数」「短納期」で稼働できる
・版を作らないため同一の形式で一部が異なるものの印刷にも対応できる
・色の再現度では特色を使えるオフセット印刷に比べると限界がある
【オフセット】
・インキをブランケット(転写ローラー)に転写させてから紙に印刷する(版と用紙が直に触れないため版の摩耗が少ない)
・版を作るので大量印刷に向く
・インキが紙に密着するため精度の高い印刷が可能。小さな文字なども鮮明に表現できる
・DICカラー(特色)を使用できるため、色のこだわりに対応できる
文字のとおりの「印刷」、「印刷物のチェック」をする「検査」。
では、「刷版」とは――?
初回は見学に参加する社員の間でも「印刷会社に入るまで聞いたことがなかった」と話題になったナゾの工程「刷版」に迫ります!
刷版課は「印刷工場の始点」
刷版無くしてオフセットはならず
オフセットで印刷をするためには、機械へ取り付ける「版」が必要となります。
その大事な「版」を製作しているのが「刷版課」。ものづくりの始めの一歩を担っています。
平らなアルミの板が印刷機で使える「刷版」になるまでを見てみましょう。
刷版ができるまで
刷版の完成までには「露光」「現像」という作業が必要です。
「露光」で画線部(インキがのる部分)が焼きつけられ、「現像」された結果、画線部と非画線部(インキがのらない部分)とに分かれます。
露光する際にフィルムを使用する方法としない方法がありますが、どちらの方法をとっても焼きつけ・現像は必須となります。
現像前 真っ青です
現像後 露光によって焼きつけられた部分だけが青く残っています。
青い部分以外にはインキはのりません!
版がとりつけられた様子
フィルムを使う場合(写真製版)
焼きつけ作業に必要なフィルムは印刷物の色数によっても異なり、例としてインキ4色で印刷をする場合は
C(藍)M(紅)Y(黄)K(墨)それぞれの版に使用する4色分のフィルムが必要です。
フィルムを使わない場合(CTP)
デジタルデータからフィルムなどの中間物を作らず版材に直接露光して刷版を作る方式をCTPと言います。
フィルムを作る工程が丸ごと無くなるため、結果的に製版に掛かる時間が短くなり、もし訂正があった場合にもフィルム代がかからないため、コストをおさえることができます。
Q&A
Q 担当業務で苦労する点をおしえてください
A 全体でひとつの仕事を仕上げる印刷工場でいちばん最初に行う工程を担当しているので、仕上がりまでの予定を逆算して作業することや先の部署との連携が求められます。また、小さな傷や汚れが印刷物に直で反映されてしまうため、丁寧な仕事が必要とされます。
Q 危険な作業はありますか?
A アルミ板で手を切りやすいこと、使用する薬品が目や皮膚に触れると危険なこと……様々ありますが、いちばんは「古くから大事に使っている機械を破壊したら代わりの部品がない」かもしれないという恐怖――危険だらけです。
Q 綺麗な印刷物をつくるためのコツ、工夫を教えてください。
A なによりも版に傷をつけたり汚したりしてはいけないので、回収・持ち運びの際にはとても気を遣います。印刷課に引き渡す版には紙を貼りますが、厚みや手触りを考え、傷が付かないような種類を選んでいます。
刷版課の見どころ━職人仕事の写真製版━
CTPが導入され、人を選ばず安定した業務が可能になった刷版課。
CTP以前に主流とされていたフィルム製版は完全に機械化されておらず、手間はかかるが熟練された技術が光る「手仕事」の工程でした。専門的な内容ですが、感銘をうけた職人のお話をご紹介します。
仕事について
フィルム刷版の面白いところは「技術力がつく面白さ」。
一日の作業時間でこなせることも習熟度によって差が出るので、学んだ分、手を動かした分が仕事に反映され、目に見える成果がでる。
しかし自分の目、自分の体で習得していくことが多いので、教えるのがとにかく難しい。
露光度(焼きつけの際の光量)の調節、湿度や気温から現像液の濃度を読んで、ガラスに汚れのないよう磨いて……働きだした時は何もわからないし成長の見晴らしも悪いけど、仕事と向き合ううちに状態がわかるというか、会話のようなものができるようになる。生き物じゃないんだけど。仕事道具と。
面倒だけど原理を知らないとうまく行かないことだから、結局いろんな工程に詳しくなるし、そうすると何かあったときに原因を自分で考えて動くことができる。
現場で不便なことを解消するために、何かと自分で作ったり……
CTPが入って良いこともたくさんある。マニュアル化されているから仕事を教えることも楽だし、誰でもある程度できる。版の入れかえをしなくていいから傷がつかないし……人が触るから傷が付くんだよ。
不便を補う工作。
「もっと綺麗なもん撮んなさいよ」
自分の手を使って一から積み上げた経験があるにもかかわらず、機械化された業務を否定せず、「いずれフィルム刷版はなくなるだろう」と話してくださる姿が印象的でした。
私も今回見学に行かせていただくまでフィルム刷版について、技術も仕組みも知りませんでした。お話の中にもあったように、アナログ技術を理解することが新しい技術や業務をより良くすることに繫がっていくのではないかと感じました。
殖版機。
露光によって文字・図版などフィルムの内容を版へ焼きつける機械。反射している部分はガラスです。
見学のまとめ
・「版」……平らなアルミの板
・「刷版」……焼きつけ、現像などの作業が終わり、印刷機に取り付けられる状態になった版
・「刷版課」……印刷物の情報を版に焼きつけ、現像した「刷版」をつくる部署
謎多き刷版課は、オフセット印刷に欠かせないパーツを担う重要な部署でした。
馴染みが無く、なかなか理解できない用語を根気強く説明してくださった刷版課の皆様、ありがとうございました!
現在業界の主流はCTPになりつつありますが、フィルム刷版の技術が失われず継承されていくことを願ってしまいます。
次は印刷課
次回の舞台となる印刷課を少し覗いてみましょう。
なぜ、こんなに綺麗に積めるのか。
手元の紙束の端すら揃わず、何度もトントンしてやっと整えている自分にとっては衝撃の光景です。工場内は湿度が一定に保たれており、さらに紙を積む際には除電・除湿ができる特殊な機械が使用されます。抵抗の原因となる静電気や湿気を抑え、紙を取扱いやすい環境になるよう整えているのです。
印刷機も勿論ですが、さまざまな役割を果たす機械が揃い、効率的に仕事が進められていることに驚きます。
次回、紙を扱うプロ・印刷課のコラム更新は2022.6.20を予定しております。
ご覧いただきありがとうございました。
――お楽しみに――